始期 一(1)

小説「主【NUSHI】」
始期
諸麗真澄

2013年1月―

年が明けた
マヤ暦の終わりで世界が滅ぶこともなく平穏無事に年が明けた
日は天に昇っている
いい天気だ
寒さもほどほどといった感じの冬である
なぜだか俺は虚ろな自分から抜け出せない
何をやったらいいのか分からない
出来ることはあるはずなのに何もやらない
ベットに横になっている俺は
さっきカーテンを開けて見た外の景色をぼんやりと思い返していた
『何をしているのですか』
(?・・・誰だ!)
『誰って私ですよ』
(俺の頭の中にいるおまえは誰だ)
『さて、はじめるとしましょうか』
(はじめるって何をだ)
『物語です・・・おまえの』
すると突然黒い闇が俺を飲み込み
ベットにいた俺は吸い込まれるようにして意識を失った

―1999年12月―

(・・・!?)
「ここは・・・」
ベットから上半身を起こした
見え覚えのある部屋である
(俺の部屋だ)
あのときの俺の部屋
そこは俺がマンションで一人暮らしをする前に住んでいた実家の
リホームする前の俺の部屋だった
足元のほうにある小さい窓に行きカーテンを開けて外を見た
一瞬言葉を失った
そこにはまばゆい光で包まれた見慣れない景色が広がっていた
「どこだここは」
俺はパチパチと目を瞬かせて首を振った
(死んだのか・・・)
死後の世界かと思ったそのときだった
「いいえ、死んでいませんよ」
突然後ろから声が聞こえた
とっさに振り向き声の方向を見ると
金色の長い髪をした背丈は俺と同じくらいだろうか
白い衣に身を包んだ
すらっとした少し背の高い容姿の美しい人がいた
もちろん見たことはない
「誰だおまえ、なぜ俺の部屋にいる」
容姿の美しい人は微笑んだ
「私はおまえ、おまえの一部です」
「はぁ?」
俺はこの美しい人が何をいっているのか良く分からずに
間抜けな声を出した
美しい人は微笑み言った
「さあ、行きますよ」
そう言うと美しい人は俺の手を握りグイッと引き
ベットから俺を降ろした
立ち上がった俺はキョトンとしていた
美しい人は微笑みながら俺の手を握ったままでいる
握っている感触はあるのだけど手の温度を感じない
暖かいわけでもなく冷たいわけでもない
「あのさ、どこに行くのかな・・・」
俺はどうしたらいいのか分からなくて
美しい人から目をそむけた
「目をそむけないで・・・私はおまえ」
そう言うと俺の手を握ったままくるりと向きをかえ
部屋のドアのほうへ歩き出した
俺も引かれるようにして歩き出した
そして美しい人はドアを開けた

始期 一(2)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

―????年12月―

気がつくと道の真ん中に立っていた
「どこだここ」
ドンッ
「きゃっ!」
いきなり後ろから誰かにぶつかった
「おっとっ!?」
俺は前に少しよろめいた形となった
振り返ってみるとピンクのパーカーを着てピンクのジャージをはいた
ポニーテルの女の子がしりもちをついて頭を押さえている
「いたた・・・」
女の子はこちらを見上げた
俺はなんかしまったなと思いながら
「すみませんでした」
と素直に頭を下げた
すると女の子はキョトンとしてこっちを見ている
「あれ・・・もとくん、公園にいたはず」
「ん?」
俺は首を傾げた
「もとくん?」
俺は女の子に問いかけた
「え?もとくんでしょ?」
女の子も首を傾げている
「もとくんって誰?」
俺は女の子に聞き返した
「あはは、どうしたの?私をからかっているのもとくん」
「きどもとすみくんでしょ、だってさっきと同じ格好だよ」
俺は良く分からずに自分の格好を見た
(あれ、俺こんな服着ていたっけ)
見慣れない服に戸惑っていると女の子は立ち上がって
目の前に来ていきなり俺の向こうずねを蹴った
「イテテッ」
俺は膝を曲げて足のすねを抱えた
「びっくりさせたお返しよ」
女の子はぷいっと目を閉じて顔を向こうに向けた
(なんなんだこの子は)
と思ったが
(はっ!)とさっきの言葉が頭の中でリピートされた
(きどもとすみくん)
聞いたことのある名前だ
それって俺の書きかけの小説の主人公の名前だよな
するとこの子は
「もしかして・・・ゆうきしょうこさん」
俺は少し間抜けな声で聞いてしまった
「はぁ?もとくん、私をあまり馬鹿にするとすね蹴るだけじゃ済まないよ」
少しドスの効いた声でゆうきは言った
「いや、すまん・・・」
俺は言葉に詰まった
ゆうきは、じーっとこっちを見ている
そして言った
「答えは良かったかって私に聞いたよね」
俺は小説をちょっと焦って思い出してみた
確かにもとすみがそんなようなことを最後に言ったような記憶があった
「ああ」
冷や汗が少し出るような感じがした
ニコニコ笑っているゆうきしょうこじゃない
「人は、時を見るために色々な工夫をして生きてきた・・・」
俺がそう言うと
さっと、ゆうきは手を前に出して俺の言葉をとめた
俺は少し安堵した
ゆうきは手を後ろに組むとニコニコしながら言った
「今度やったら崖から突き落とすから」
ドスの聞いた声が俺を硬直させた
(・・・こっえー・・・ゆうきってこんなキャラだったかな)
俺は血の気が覚める思いでゆうきが去っていくのを見送った
すると誰かが横から俺の手を握ってグイッっと引いた
俺は横向きになって歩く格好となった

始期 一(3)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

―???年冬期―

雪が降っている
なんだか少し寒い
どこか分からない雪原の中に立っている
少し歩いてみることにした
すると
「キィーーッ!」
と聞き慣れない雄叫びと共に
何かが襲い掛かってきた
おれは咄嗟に手に持っているソードでそれを斬った
ドサッと雪原に襲い掛かってきたものは跳ね返った
(あれ?なんで俺、剣なんて持っているんだ?)
そして自分が何か体に装着していることに気がついた
(?・・・どこだここ)
ぼんやりしているまもなく
さっきの雄叫びが周りから聞こえ始めた
「キィーー!キィーー!キィーー!」
(え?なんだ?なんだ?この状況)
俺は訳がわからずに走り始めた
何かが飛び掛ってくる
そのたびに俺はソードでなぎ払った
ドサッ、ドサッという雪原に何かが落ちる音が
駆け抜けていく俺の後ろから聞こえる
すると今度は前から
「ゴォーウッ!」
という呻き声が聞こえたかと思うと
いきなり何かに殴打された
(いつつっ!)
俺は打たれた肩を腕でおさえた
「くおぉぉっっ!」
俺は声を荒げると十時にソードを払った
「グォー!」と言ってそのものは雪原に倒れた
「なんなんだこいつら」
俺は走った
訳がわからずに剣を振るいながら走った
「なんなんだここはーーー!!」
すると、走っている俺の目の前に同じように走っている
金色の長い髪の人が現れた
俺の手を引いて部屋のドアを開けたあの美しい人かと思った
「お、おまえ!」
俺は金色の長い髪の人に怒鳴った
「こっちです」
金色の長い髪の人は走りながら
後ろで走っている俺に片手を挙げて言った
俺はあとについていくしかなかった
すると、街の灯りのようなものが見えてきた
「あそこです」
金色の髪の人は走りながら俺に言った
俺は頷いた
二人が雪原を街灯りのほうへ走っている
月明かりが二人を照らしていた
(ちょっと待て、なんの設定だぁー!?)
俺は心の中で叫んだ
明かりのところまで来るとタイマツの光だということが分かった
門みたいなところまでくると金色の髪の人は足を緩めて早歩きになった
(どこだここ)
俺はキョロキョロと周りを見ていた
見たことのない古めかしい建物が見える
すれ違う人は見慣れないものを着て
剣を鞘に収めている
「最初の村です」
金色の髪の人は立ち止まって俺に言った
ボケッとしていた俺は危うくその後ろにぶつかりそうになった