始期 二(1)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

カルサスという山が最初の村の西にある
そのふもとには森が広がりその森の端にこの村がある
森には動物や木の実、果実、キノコ、葉菜類など食料とするものが豊富にあった
しかし、ラースにとり憑くヤドリチヌスの問題がこの数ヶ月の間で頻繁に森から起こっている
ヤドリチヌスは低級の妖魔チヌスビキの霊魂だと言われている
そのことを俺は日記に質問して知った
この日記は使い方次第でとても便利なものになりそうだ
しかし、オルカは実に多くのことをこの日記に記録しているようだ
「そうですか、では、あたしも行きます」
アシカがラウルに言った
どうやらラウルはヤドリチヌスの調査にこの村へやってきたようだ
そして、アシカに色々と話を聞いている
「いえ、少し危険なにおいがします、あの山は」
ラウルは何かを考えているようだ
(カルサスには何があるんだい?)
俺は心のペンを持ったまま、また日記に質問した
「おー、いろいろ聞くね、わたしのわたし」
「わたしの記録には、十二神のひとつが眠っていると記されているね」
(十二神か)
「十二神とは大白鼠、暗黒聖牛、緑北大虎、明紫兎、双青東龍、
赤法蛇、黄賢馬、刻茶玄羊、橙大猿、金西鳳鳥、八銀犬、南無羅亥の十二の神さ」
日記は答えた
「山への道案内が必要ですし、あたしの癒しの魔法がきっとお役に立つかと思います」
アシカがラウルに自分の力を使ってもらいたいかのような言い方をしている
(癒しの魔法?)
「癒し魔法は三魔法のひとつだね、わたしのわたし」
(三魔法とはなに?)
「攻撃、癒し、特殊の3つの魔法のことだね」
日記は言った
「わかりました、アシカさんのお言葉に甘えることにします」
「しかし、危険と判断したときは、このルコの実をを食べてこの村に戻ってもらいます」
ラウルは慎重に言葉を口にしているようだ
アシカはニコっと笑った
「大丈夫です、オルカがいます」
(は?俺?)
心のペンを俺は机に置いた
いきなり俺が出てきたので少しびっくりした
「剣の腕はなかなかなのですよ」
アシカが言う
「どうやら俺の体に剣技が染み付いているようだ」
俺は雪原のことを思い返していた言った
「どれくらいの腕なのかは自分でもよく分からないけどね」
そのとおりなのだ
本当に自分でもよく分かっていなかった
「アシカさんが言うのならその通りなのでしょうね」
ラウルが俺を見て言った
「では、明日の朝から、カルサスを調査に行きます」
アシカと俺は頷いた

始期 二(2)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

夜、寝床で俺はなぜか眠れなかった
ラウルは宿屋に泊まっているみたいだ
向こうにはアシカが毛布を掛けて寝ている
俺は静かに起きると、家の扉を開けて外に出た
空を見上げると星ぼしが瞬いている
(綺麗だな)
少し俺は歩いた
すると
「よーっす、オルカっち」
誰かが俺に声を掛けてきた
「誰だおまえ」
声のほうを向いて俺は聞いた
「はぁ?おれっちのこと忘れたんすか?」
俺は首を傾げて目を瞑って考えたが
分からない
「サトバですけど」
「剣の稽古をつけてくださいよ」
なんの話だと思った
「剣もっていないぞ」
「あー、この木刀つかってください」
サトバはそういうと木刀を一本投げてよこした
俺は木刀を拾って握った
すると、サトバが木刀を振りかぶって俺に突進してきた
(!?)
ガシッ
俺は木刀でサトバの攻撃を受けた
サトバは一瞬後ろに下がり
木刀を十字に振り払った
その攻撃を俺は受け流している
(!?)
次々にサトバは打ち込んできたが
すべて俺は木刀で受け払った
「相変わらずやるじゃん、オルカっち」
「攻撃してこないんすか?」
サトバは何かを俺に投げた
「うっ!?」
何かが目に入った
「攻撃してこないから、目くらましの刑じゃん」
サトバは木刀を振りかぶると
俺の頭上に振り下ろした
ガシィィッッッ
サトバの木刀がクルクルと回転しながら弾けとんだ
目を瞑っていた俺は木刀を下から上に一瞬の間にすくいあげていた
「ほえー、すげーじゃん、オルカっち」
サトバが手を叩いた
「おまえこんな時間に何しているんだ」
「あー、さんぽっす」
「オルカっちに会えるかなっておもってさ」
「オルカっちもおれっちに会いたかったんでしょ?」
「なんか少し寒いな」
そういうと俺は木刀を返しサトバに背を向けて家に戻ることにした
「また稽古つけてくださいねー」
後ろからサトバが言った
「ああ、またな」
俺は家に向かって歩き出した
(なんなんだあいつは)
少しボーっとなっていた俺は思った

始期 二(3)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

歩いていると、ふと、
どこだここということになった
どこに向かっているんだ
あれ、家はどこだったか
少し、キョロキョロとしていると
「兄さん、どうしたね」
誰かの声がした
「え」
おれは、声の方を見た
すると、そこだけ、青白く光輝いていて
見ると
小さな、リスくらいの
白い生き物が、木の枝から
話かけていた
「ちょっと家の場所を・・・」
と、言おうとしたが
なんか変なこと言おうとしている
自分に気づき
「ちょっと家の場所を目を閉じて
歩いてみて当てようしたのだけど
うまく行かなくって、目を開けてみたら、
ここがどこだか分からなくなって
しまったことに驚いて」
おれは、結構適当に言ってしまった
「ほんまかいな、兄さん」
白いリスは言った
「すまん、本当は道に迷った」
正直に話した
「そっか、じゃあ」
・・・
「ん?」
(じゃあ、ってことは)
「ちょっと待って、リスさん」
「本当は、家に帰りたい」
俺は言った
「そっか、」
白いリスはそう答えた
(俺はどうしたらいいんだ)
少し悩んでいた
「おいらは、大白鼠っていうんだ」
???
(どこかで聞いたことがある)
「予知が出来るのだよ」
大白鼠は言った
「予知」
俺は何を言っているか分からなかった
「未来が見える」
「だから、あんさんに声を掛けた」
大白鼠は言った
「すまん、よう分らんけど」
「予知が出来るなら」
「俺の家の場所を教えてくれ」
俺は、真面目に言っていた
「ちょい、難しいな」
大白鼠は言った
「なぜ?」
俺は聞いた
「あんさんは、あそこに戻らん方がええ」
大白鼠は言った
「え」
(無茶苦茶な急展開や)
俺は思った
「さっきも、ゆうたけど」
「おいらは、予知が出来る」
大白鼠が言った
「じゃあ、俺はどうすればいい」
真面目に聞いていた
「元の世界に戻してやろう」
大白鼠が言った
「元の世界・・・」
(ここには来たばかりなのに)
俺はつぶやいた
「あんさんは、次元の狭間に
吸い込まれてこっちに来た」
「でも、何もしてない」
「もしくは、何もしなかった」
「けれども」
「逆にそれでいい」
「世の中は進み」
「世界は変わる」
「あんさんのお陰や」
大白鼠が言った
「え」
「ど、どういうことだ」
俺は、ちょっと
不思議な感じがした
「簡単にいうと、
あんさんがぼーっとしている間に」
「あっちの世界のあんさんが、色々動いて」
「あんさんを呼び戻そうとしている」
「だから、元のリアルの世界に戻るんだ」
大白鼠は、諭すように言った
「???」
そう大白鼠から聞こえると
大白鼠が光輝き出し
光が大きくなった
(・・・!)
そして、光が俺を吸い込んだ
(そんな急展開や)
俺の意識は、薄らいで行った・・・

始期 二(4)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

2013年1月―

年が明けた
マヤ暦の終わりで世界が滅ぶこともなく平穏無事に年が明けた
日は天に昇っている
いい天気だ
寒さもほどほどといった感じの冬である
なぜだか俺は虚ろな自分から抜け出せない
何をやったらいいのか分からない
出来ることはあるはずなのに何もやらない
ベットに横になっている俺は
さっきカーテンを開けて見た外の景色をぼんやりと思い返していた
『何をしているのですか』
(?・・・誰だ!)
『誰って私ですよ』
(俺の頭の中にいるおまえは誰だ)
『さて、はじめるとしましょうか』
(はじめるって何をだ)
『物語です・・・おまえの』
(!!!!!)
(同じだ!)
突然黒い闇が俺を飲み込もうとしたが
黒い闇が徐々に消えていった
『成長しましたね』
『ではこの続きに進みましょうか』
「先が見たい」
『では、引き続き、デザインを描きます』
「それか」
『そうです、あなたが行きつく先はデザイン』
「前にも聞いたような気がする」
『ボールペンを買って来ましょうか』
「覚えがある」
おれは、ベットから起き上がり、
服を着替え、財布をズボンのポケットに入れた
アパートの階段から降りると
原付がある
俺の原付
原付に乗ると
原付を走らせ
書店に向かった
「あのボールペンかな」
書店に入り、文具売り場で
ボールペンを探した
「こ、これだ」
ボールペンを持ち
レジに向かった
レジには女性の店員の方がいる
眼があった
「どうぞ、こちらへ」
「157円です」
女性の店員の方がレジ打ち後に
金額が聞こえた
俺は、財布を出そうとした
(あれ、財布がない)
(えー、、こんなんかぁ)
女性の店員の方が怪訝そうな顔をしている
「あ、ちょっと待ってください」
「財布を車に忘れてきました」
(原付なのに、・・・)
「はい、かしこまりました」
慌てて俺は、店を出た
原付まで行くと、
「え・・・」
原付の上に
「157円が置いてある」
(よく分からない世界に迷い込んだか)
『そのお金で1本、ボールペンを買ってください』
(ん?このお金は)
『そのお金は、天からの贈り物です』
『大切にボールペン1本と交換して下さい』
「財布がないのだけど」
(まぁ、いいか)
原付のシートの上の157円を持って
また、店に入り
さっきの女性の店員のレジの所までやってきた
「いらっしゃいませ」
「あ、さっきのボールペン買います」
「ありがとうございます、157円です」
手に持っている157円を渡して
ボールペンを1本買った
(ふぅー、この先どうなるのだろう)
『さあ、家に帰って、絵を描きます』
(帰るか)
原付を走らせ、アパートに戻ってきた
階段を上がり、部屋に入って
コピー用紙の紙を一枚とり、
机の椅子に座り
ボールペンを走らせた
なめらかに、ペンが走り、
見る見る絵が描けていく
いつもの自動書記だ
(う、腕がちょっと痛い)
(こ、ここからか)
ちょっと、気が散りながら
絵を描いた
「出来た」
「さてと、スキャナーで取り込むか」
PCの電源を付けて
ソフトを立ち上げ
スキャナーにコピー用紙を挟んで
スキャンを始めた
「ウィー――――ン」
ふぅー、いちいちだな
ソフトで加工して
線画だけの状態で
もう一つ、ソフトを立ち上げ
色を塗り始めた
色は感覚で塗っていく
(いつもの、色感覚だ)
「出来た」
「さてと、これを、ネットに上げると」
自分の絵のサイトにアップロード
「ふぅー、出来た」
「寝るかな」
『仕事はどうしたのですか』
「え?」
「ちょっと休憩」
それから、仕事に出かけた
そんな今日の俺の一日