始期 一(4)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

ドンッ
「きゃっ!」
横から誰かにぶつかった
「うげっ!?」
俺は横によろめいた
ぶつからないと思ったらまたぶつかった
そんなことを思いながら
ぶつかった相手を見た
ピンクの服にピンクのスカートをはいた
ポニーテールの女の子がしりもちをついて頭を押さえている
「いたた・・・」
女の子はこちらを見上げた
俺は(あれ?)って思った
「すみませんでした」
と口からは出たがこの顔さっきの
「あれ・・・オルカ、家にいたはず」
「ん?」
俺は首を傾げた
「オルカ?」
俺は女の子に問いかけた
「え?オルカでしょ?」
女の子も首を傾げている
「オルカって誰?」
俺は女の子に聞き返した
「あはは、どうしたの?あたしをからかっているのオルカ」
「オルカ・リーエンスでしょ、だってさっきと同じ格好だよ」
俺は良く分からずに自分の格好を見た
(あれ、俺こんな服着ていたっけ)
見慣れない服に戸惑っていると女の子は立ち上がって
目の前に来ていきなり俺の向こうずねを蹴った
「イテテッ」
俺は膝を曲げて足のすねを抱えた
「びっくりさせたお返しよ」
女の子はぷいっと目を閉じて顔を向こうに向けた
(なんなんだこの子は)
と思った
どう考えても分からない
さっきの言葉を頭の中でリピートしても分からない
(オルカ・リーエンス)
聞いたことのない名前だ
この女の子の顔は、さっきみた
ゆうきしょうこ
と同じ顔をしている
聞いてみるかな
「もしかして・・・ゆうきしょうこさん」
俺は違うだろうなと思って聞いてみた
「はぁ?オルカ、あたしをあまり馬鹿にするとすね蹴るだけじゃ済まないよ」
少しドスの効いた声で女の子は言った
「いや、すまん・・・」
俺は言葉に詰まった
女の子は、じーっとこっちを見ている
そして言った
「答えは良かったかってあたしに聞いたよね」
さっきとまったく同じ展開だぞと思いながらも
少し焦った
「ああ」
冷や汗が少し出るような感じがした
(誰なんだこの子はー)
と頭の中で繰り返されている
「ちょ、ちょっと待って」
俺は口に出さずにいられなかった
「どうなさいましたか?」
と誰かが割って入ってきた
すぐ前を見ると
さっき立ち止まった金色の長い髪の人がこちらを見ている
(同じ顔だ)
俺は心の中で思った
美しい顔は俺の部屋で見た顔と一緒である
「誰なのこのかたは?」
女の子が聞いてきた
(いや、俺はあなたの名前が分からないのだけど)
声を大にして言いたかった
それに美しい顔の人の名前も知らない
「私はラウル」
微笑んで言った
「あたしはアシカ、オルカの姉です」
「えーー!?」
つい言ってしまった
俺はなにがなんだかさっぱり分からなくなった
アシカは手を後ろに組むとニコニコしながら言った
「ふざけていると崖から突き落とすから」