始期 一(7)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

家の扉を開けて三人は中へ入った
「あたしはちょっとラウルさんと話があるから」
「オルカ、先にいってお風呂に入っていて」
「風呂?」
「奥の扉を入ってすぐでしょ」
奥を見た
隠れていて見えない
「あれ?ご飯は食べないの?」
ラウルを見た
微笑んでいる
「お風呂に入ってからにします」
アシカは真面目な顔をしている
「そのほうが落ち着いて話がしやすいです」
俺は頷くしかなかった
奥に行くと扉があり
その手前に服を脱ぐ場所らしきところがあった
(服はここで脱ぐのか?)
アシカたちのほうをみようとしたが見えない
「よし向こうからは見えないな」
服を脱いで
扉をそっと開けて中に入った
じめじめしていて中はガランとしている
タオルとなにかがおいてあるだけだ
「なんだここ?」
「なんだここー、なんだここー」
しゃべりながら周りからいくつかの水の塊が集まってきた
「うわっ!?」
「なんだおまえら」
「なんだおまえらー、なんだおまえらー」
(なんなんだこいつら)
「おまえの名前を早く言え」
水の塊のひとつが言った
「はっ?」
「はっ、はっ」
水の塊たちが繰り返して言う
「なにこいつー、なにこいつー」
少しざわつきだした
(えっと、名前か)
「オルカ」
「オルカー、オルカー」
「・・・・・」
俺はじれったくなった
「なんだよ」
「なんだよー、なんだよー」
ブブゥゥーッ
「うわっ、つめて!」
水をかけてきやがった
「おまえらな」
「おまえらなー、おまえらなー」
「ちょっと頭にきた」
「ちょっと頭にきたー、ちょっと頭にきたー」
ブブゥゥーッ
ブブゥゥーッ
「うわー!つめって!なにしやがる!」
ブブゥゥーッ
すると、扉が開いた
俺は振り向いた
「ラウルさんはちょっと長老の家へ行ったわ」
見ると白い肌をしたスタイルのいい女性が裸で立っている
ふくよかな胸をして
その下は
「え、えーーーー!!?」
「ちょ、ちょ、アシカ」
俺はアシカのほうから目をそむけた
ブブゥゥーッ
ブブゥゥーッ
ブブゥゥーッ
「つめて!つめて!」
目が開けられなくなった
「うわぁーー!??」
何かにすべった
ゴンッ
どうやら頭をぶったようだ
「アシカ・リーエンス」
アシカの声が聞こえる
「あんたたち静かにしなさい」
おぼろげになって聞こえる
「オルカ、オルカ・・・大丈夫」
俺の意識が消えていく

ポチャンッ

どこだここ真っ暗だ
(苦しいぞ)
プニュプニュ
なんだこの感触
「ぷはぁっ!苦しい!」
「馬鹿!しっ!」
アシカが声を殺したように言って俺の口を押さえた
どうやらアシカと布団の中で密着しているようだ
「ラウルさんは寝たみたいよ」
(??)
いまいち状況が飲み込めない
「おまえが意識を失ったあと帰ってきておそいから泊まってもらったの」
「毛布2枚しかないから我慢しなさい」
(我慢しなさいってどうやって我慢するんだこの状況)
俺は顔が真っ赤になっていた
するとアシカは俺の顔を自分の胸に押し当てた
(殺すきか・・・)
そのまま夜が明けた