始期 一(2)

小説「主【NUSHI】」
諸麗真澄

―????年12月―

気がつくと道の真ん中に立っていた
「どこだここ」
ドンッ
「きゃっ!」
いきなり後ろから誰かにぶつかった
「おっとっ!?」
俺は前に少しよろめいた形となった
振り返ってみるとピンクのパーカーを着てピンクのジャージをはいた
ポニーテルの女の子がしりもちをついて頭を押さえている
「いたた・・・」
女の子はこちらを見上げた
俺はなんかしまったなと思いながら
「すみませんでした」
と素直に頭を下げた
すると女の子はキョトンとしてこっちを見ている
「あれ・・・もとくん、公園にいたはず」
「ん?」
俺は首を傾げた
「もとくん?」
俺は女の子に問いかけた
「え?もとくんでしょ?」
女の子も首を傾げている
「もとくんって誰?」
俺は女の子に聞き返した
「あはは、どうしたの?私をからかっているのもとくん」
「きどもとすみくんでしょ、だってさっきと同じ格好だよ」
俺は良く分からずに自分の格好を見た
(あれ、俺こんな服着ていたっけ)
見慣れない服に戸惑っていると女の子は立ち上がって
目の前に来ていきなり俺の向こうずねを蹴った
「イテテッ」
俺は膝を曲げて足のすねを抱えた
「びっくりさせたお返しよ」
女の子はぷいっと目を閉じて顔を向こうに向けた
(なんなんだこの子は)
と思ったが
(はっ!)とさっきの言葉が頭の中でリピートされた
(きどもとすみくん)
聞いたことのある名前だ
それって俺の書きかけの小説の主人公の名前だよな
するとこの子は
「もしかして・・・ゆうきしょうこさん」
俺は少し間抜けな声で聞いてしまった
「はぁ?もとくん、私をあまり馬鹿にするとすね蹴るだけじゃ済まないよ」
少しドスの効いた声でゆうきは言った
「いや、すまん・・・」
俺は言葉に詰まった
ゆうきは、じーっとこっちを見ている
そして言った
「答えは良かったかって私に聞いたよね」
俺は小説をちょっと焦って思い出してみた
確かにもとすみがそんなようなことを最後に言ったような記憶があった
「ああ」
冷や汗が少し出るような感じがした
ニコニコ笑っているゆうきしょうこじゃない
「人は、時を見るために色々な工夫をして生きてきた・・・」
俺がそう言うと
さっと、ゆうきは手を前に出して俺の言葉をとめた
俺は少し安堵した
ゆうきは手を後ろに組むとニコニコしながら言った
「今度やったら崖から突き落とすから」
ドスの聞いた声が俺を硬直させた
(・・・こっえー・・・ゆうきってこんなキャラだったかな)
俺は血の気が覚める思いでゆうきが去っていくのを見送った
すると誰かが横から俺の手を握ってグイッっと引いた
俺は横向きになって歩く格好となった